藤岡さんから、2006年の6
通目のお手紙として「緊急寄稿」です。
6月13日に亡くなられた岩城宏之先生に捧げる「追悼文」です。
私達も、岩城宏之先生の御冥福をお祈りいたします。
(今回は、写真はありませんので御容赦願います。)
皆様のご感想のメールもお待ちしています。

 
岩城先生が亡くなられた。

まだ信じられない心境です。

岩城先生は僕の恩師の渡邊暁雄先生の最初の弟子で、僕は最後の弟子だった。


僕が留学する前に、渡邊先生が僕のことを「すごく可愛がってる弟子なんだ」といって岩城先生を紹介してくださり、僕が岩城先生のリハーサルを見に行ったのが最初にお会いした機会だった。

その後僕はイギリスに留学して、岩城先生がイギリスにいらっしゃるたびに、僕は先生のリハーサル・本番に押しかけてしょっちゅう夕飯をご馳走になった。

先生は僕の大食いを気にいってくださり、先生の奥様と僕のカミさんと4人でもよくご馳走になった。


なんといっても岩城先生との思い出は、1992年のオランダで4年に一度行われるインターナショナル・マスタークラスだ。

このマスタークラスは過去にハイティンクやエド・デ・ワールド他沢山の名指揮者を世に送り出した由緒あるもので、僕が応募したとき先生はこのマスタークラスの教官(一人だけ)だった。

書類審査で選ばれた30人がさらに最初のオーディションで半分に減り、ピアノを使った講習が1週間、さらに半分の8人に絞られて今度は放送オケを朝から晩まで指揮して1週間、最後に4人に絞られて1週間、最後はその4人がコンセルト・ヘボウでデヴューさせてもらえる(順位がつかないのがコンクールと違うところ)。僕は最後の4人に選ばれたので、3週間のあいだ、朝から晩まで先生にしごかれた。夜は他の生徒には内緒で毎晩先生の夕食のお供をした。

先生に可愛がられたというよりは、先生は淋しがりやで、夕食の相手が欲しかったのだと思う。(日本人は僕だけだった)。

僕のキャラが寅さんにそっくりだというので、僕のことを「寅!」といつも呼んでいた。

昼間は厳しくてめちゃ怖かったけど、夕食の時間は本当に楽しかった。いつも音楽の話で、たまにピアニストの奥様がいらっしゃるときは少年のようにご機嫌だった。

先生は毒舌で辛口だったけど、人柄がとてもチャーミングで色気があったから聞いてて気分がいい。

例えば僕が渡邊先生に初めて紹介されてお会いした後、先生はその日の夜に渡邊先生の奥様に電話して言った言葉が

「あけちゃん(渡邊先生のこと)もついにモウロクしたか。」

僕がリハーサル見学後に岩城先生にした質問があまりにアホらしいものだったので、ついに渡邊先生の見る目が衰えたかという意味。


オランダのマスタークラスで最後の4人がデヴューさせてもらえたとき、僕が与えられた曲はブリテンの「四つの海の間奏曲」。

この曲は岩城先生がベルリン・フィル初演を指揮した、特別に思い入れのある曲と知ってたから凄く嬉しかった。

演奏会前の特に3日間の岩城先生は本当に厳しくて、昼間はろくに口も聞いてもらえなかった。

それでもコンセルトへボウでの本番前に、僕以上に緊張してた僕のカミさんに優しい言葉をかけてくれたり、本番終わった後の先生は優しい顔に戻り、ホテルの先生の部屋で奥様も一緒に明け方まで騒いでた。


僕は先生にはいつもボロクソに言われてたけど、先生の優しさと情熱からエネルギーをもらっていた。


昨年末と今年の新年に初めて岩城先生が育てたアンサンブル・金沢を振りに行った。

オーケストラの素晴らしさは勿論のこと、夢のようなコンサート・ホールと施設、そして沢山の聴衆に心底感動した。

21世紀のクラシック界は地方オーケストラがカギを握ってるが、それを先頭に立って、岩城先生は示してきた。

戦後の時代にクラシック音楽で日本人としてウィーンフィルやベルリンフィルの指揮台に立ち、海外で活躍するのは本当に凄いことだったと思う。

その一方で現代の作曲家に最も貢献した指揮者でもあり、地方オーケストラを育て続け、沢山の著書で文才を発揮してきた。

まさに、20世紀から21世紀へと長きにわたり日本のクラシック界を引っ張り続けた岩城先生。

先生が遺してくれた言葉

「指揮することはすなわち思うこと。」
「絶対自分はこうやりたい!!」と強い「思い」があって初めて指揮台に立てる。

先生の情熱的な人生は、全てが「思うこと」そのままだったのではないだろうか。

先生ほんとうにお疲れ様でした。

心よりご冥福をお祈りいたします。

2006年6月17日



 
 


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